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広報あつぎ 第1256号(平成29年6月1日発行)

特集 七沢の守り人

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神奈川県厚木市

深い歴史と自然の魅力にあふれる七沢地域には、明治時代以前から里の人々を見守ってきた神社がある。鐘ヶ嶽(かねがたけ)の山頂付近に建つ、浅間山七澤(せんげんさんななさわ)神社だ。今回は、その存続の危機に直面しながらも、労力を惜しまずに地域の宝を守った9人の総代たちの思いに迫る。

「チャンチャカドコチャッチャッ」―。桜が舞い散る神社の境内に、にぎやかな太鼓の音が鳴り響く。4月16日、地域の祭りとして親しまれている、七澤神社の「例大祭」が開かれた。みこしを担ぐ子どもたちの元気な掛け声や演芸のステージ、屋台から立ち上る香ばしい匂いなどが、集まった人々を笑顔にした。
例大祭は神社が主催する最も大きな行事で、氏子(うじこ)総代(※1)の9人が準備を進め、取り仕切った。地域住民や中学生が描いた行灯(あんどん)が飾られたり、子どもたちのために大道芸人が招待されていたりと、より多くの人に楽しんでもらえるよう工夫が施された。
「みんなが喜んでくれて良かった」。にぎわう会場を温かいまなざしで見つめるのは、総代代表の黄金井さん。行灯に明かりがともるころ、そう静かにつぶやき、安堵(あんど)の表情を浮かべていた。

●本殿の危機
祭りの会場となっているのは東丹沢七沢観光案内所近くの遥拝所(ようはいじょ)(※2)で、本殿は標高561メートルの鐘ヶ嶽山中にたたずむ。もともとは浅間神社だったが、明治5年に焼失。翌年、周辺の二つの神社と合わせて七澤神社と改称し、同12年に氏子たちの手で再建された。
麓の登山口から本殿までは、直線距離で約1500メートルある。狭い急坂などもあり大人の足でも1時間以上はかかるため、参拝は容易ではないが、毎年正月前には自治会が持ち回りで参道を清掃するなど、地域で大切にしてきた神社だ。参道はハイキングコースに指定され、ハイカーたちにも愛されている。
黄金井さんは平成22年に総代の役目に就くと、清掃のために初めて本殿の屋根に登り、驚いた。長年の雨や落ち葉が泥となって溜まり、屋根を腐らせていたからだ。20年来の懸案事項と聞き、本殿の存続に危機感を募らせると、本格的な屋根の修繕に取り掛かることを決意した。

●切り開いた山頂への道
修繕には大量の資機材の運搬を要するため、作業用モノレールの敷設が必須だったが、当初は多額の費用を懸念して反対する声もあった。一部には、本殿を下に移動する提案もあったという。「神社は長年、みんなの心の拠り所となってきた地域の宝。軒並みならぬ苦労をして建てた先代たちのためにも、この場所で守っていくべき」と考えていた黄金井さんは、全員の賛成にこだわり周囲を説得。モノレールの敷設が決定したのは、3年後だった。
モノレールは、施工業者に一任すれば完成を待つことができた。しかし黄金井さんたちは、レールを敷く道を自力で作ることを選択した。費用を抑えることはもちろん、自然保護のため樹木の伐採が最小限で済むようにしたかったからだ。山頂まで登っては下りることを繰り返し、最善と思われる全長約600メートルのルートを決めると、その道中に生えている木々を自分たちで伐採した。
道のない山の中をはって登り、木を切るのは困難の連続だった。40度近い傾斜では滑る上に、フジの木などはツルが絡まって簡単には倒れなかった。
モノレールが山頂まで到達したのは、26年10月。これにより、発着点となる林道から本殿までを、片道約15分で往来できるようになった。

●生まれ変わった屋根
27年の秋から、地元の大工や板金職人による屋根の修繕が始まった。黄金井さんたちは、剥がした屋根のトタンなど、3トン以上もの廃材をモノレールで何度も往復して運び下ろした。1日がかりの作業が続きくたくたになったが、徐々に生まれ変わっていく神社の姿と、「ぜひ神社を守って欲しい」と活動を後押しする地域の人々からの声に励まされた。
28年3月、構想から5年以上の月日を経て屋根の工事が完了。新しく銅板で覆われた屋根が日の光を浴びてキラキラと輝くのを目の当たりにした9人は「もう心配ない。やってきて良かった」と達成感をかみ締めた。11月には、本殿の隣に記念碑を建立した。

●守り人の務め
モノレールが設置されてからは山の中腹での作業も可能となったため、黄金井さんたちは倒木の恐れのある樹木の伐採など、ハイキングコースでもある参道の整備に一層力を入れている。「今後は、ハイカーや参拝者たちのためのトイレの設置に最優先で取り組みたい」「参道の途中には休憩できるベンチを作り、山頂付近は部分的に伐採して見晴らしを良くしよう」と新たな目標にも意欲は尽きない。
ふるさとの歴史を守り、訪れる人たちに地域の良さを感じてもらうため、七沢の守り人たちはこれからも心を一つに力を合わせ、里の宝を後世につないでいく。

(※1)総代…地域の神を祭る氏子の中から、神社を維持するために選ばれた人
(※2)遥拝所…離れた場所から神仏などを拝むために設けられた場所

問い合わせ 観光振興課TEL 225-2820

〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-21-11 山竹ビル