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広報あつぎ 第1310号(2019年9月1日発行)

出会いを重ねてすてきに生きる(1)

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神奈川県厚木市

年を取ることは、何かを失うこと─。現代、時折目にする悲しいニュースは、私たちの心に不安の影を落とします。でも、本当にそうでしょうか。私たちの身近には、重ねる年月の機微を味わい、胸をときめかせ、自由に、慎ましく、つながり、生きる人たちがいます。
あつぎ元気Wave:9/1〜CATVで放送

■音楽を味わう空間づくり
ライブハウス経営 佐藤ふじ子さん
ベースの重厚な音とリズムを刻む打楽器、踊るようなピアノのメロディー。中町にあるライブハウスの扉を開けると、プロの演奏家たちの奏でる音が空気を震わせる。音に身を委ね、拍手を送る観客を穏やかな表情で見つめるのは、佐藤ふじ子さん(73・中町)。ジャズを中心としたライブハウスを開いて12年になる。
佐藤さんがジャズと出会ったのは、働き詰めの日々を終えた60歳の時。定年祝いの旅行先でライブハウスに立ち寄った時のことだった。音楽に親しみのなかった佐藤さんにとって、初めて目にしたプロの技や、体の芯から震えるような音の迫力は衝撃だった。「どうして今までこんなすごいものを知らなかったんだろう」。翌朝、目が覚めると、とても幸せな気持ちを感じている自分に気付いた。
その日から毎日のように、好きなバンドの演奏を聴きに全国のライブハウスを飛び回った。感想を語り合える顔なじみのスタッフや、インターネットが苦手な佐藤さんに手紙で情報を知らせてくれる友達もできた。1年ほど経つ頃にはいつの間にか、好きなものに共感してくれる観客が集まるライブハウスを開きたいという意志が固まっていた。開店には、ジャズを通して知り合った友人がホームページ制作や看板のデザインなどを助けてくれた。「本当に人に恵まれた」と佐藤さんは振り返る。
大好きな演奏者に自ら出演交渉をして、お客さんと一緒に演奏を聴くことが何よりも楽しいという佐藤さん。「人生で初めて自分の好きなことをやっている気がする。今が一番幸せ」とほほ笑む。これからも、大好きな音楽を分かち合う空間をつくっていく。

■黙々と技磨き
シニアソフトボール選手 菊地忠志さん
力強い投球フォームから放たれた球が、小気味よい音を立ててミットに収まる。59歳以上の選手でつくるソフトボールチーム「シニア厚木クラブ」の全国大会出場を懸けた大事な試合。マウンドでは、菊地忠志さん(81・三田南)が捕手の手元に真剣な視線を送っていた。
菊地さんは50代の時、自治会の仲間に誘われてソフトボールを始めた。ほとんど経験がないにも関わらず、選手が足りないからと投手を頼まれ、52歳で初めてマウンドに立った。最初は全くストライクが入らず悔しい思いをし、二回りも年下の仲間からどやされた。「競技も仕事と一緒。頼まれたからには、納得のいくまでやり切りたい」。そう考えた菊地さんは、チームの練習がない日にも毎日、黙々と自主練習を続けた。出勤前に素振りをし、仕事から帰ると自作のネットで投球フォームを確認。その習慣は、チームメートに頼られるようになった今も欠かさない。チームメートで20年以上菊地さんを知る金巻進さん(63・妻田北)は「菊地さんの妥協しない姿勢はすごい。仲間はみんな、彼のように80代でも現役でやるのが目標になっている」と尊敬のまなざしを送る。菊地さんは「自分より若い世代に活躍してほしいから、自分は控えでもいい。でも、ピンチの時には自分が押さえるつもりでベンチにいる」と力を込めた。
チームの目標は、60歳以上のスポーツ全国大会「ねんりんピック」に再出場すること。「邪魔にならないように、でも若い人に負けないよう食らいついていきたい」。目標を見据え、菊地さんは腕を磨き続けている。

■誰でも楽しめる場を
ボランティア演奏会企画 馬場徹さん
「始めるよ。ひい、ふう、みい」。掛け声とともに打楽器がリズムを取り、一斉に楽器が鳴らされる。ここは、ボランティアで観客参加型の演奏会を開催する「昭和大衆演芸企画」の練習場。16日に文化会館で開催する演奏会に向けて集まった12人のメンバーが、歌謡曲やラテン音楽の練習を重ねている。打楽器を担当する馬場徹さん(73・吾妻町)は、演奏会の企画・運営を取り仕切っている。
普段は、市内でタクシー運転手として働いている馬場さん。病院に通う高齢者を乗せることが多く、世間話の中で、一人暮らしの寂しさや、体が思うように動かないつらさを耳にしていた。8年前、自身も70歳を目前にして「誰もがいつかは年を取る。彼らを笑顔にするために、何かできないか」と考えた馬場さん。昭和の懐かしい音楽を演奏し観客に歌ってもらう、参加型の演奏会を思い付いた。チラシやポスターでメンバーを募ると、共感した人が徐々に集まった。今では9人が所属し、月に2回ほど練習をして、その後メンバーで食事に行くのも一つの楽しみになった。
福祉施設などで開く演奏会では、認知症の人や体が不自由な人でも、知っている曲が流れると歌ったり、体を揺らしたりして楽しんでくれる。そんなときが、馬場さんにとって一番うれしい瞬間だ。
「自分もメンバーも楽器はうまくないけど、それでいい。お客さんは喜んでくれるし、自分たちも集まるのが楽しいんだから」。練習も本番も心から楽しむ馬場さんたちの演奏は、今日も誰かに笑顔を届けている。

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