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広報あつぎ 第1316号(2019年12月1日発行)

特集 無意識の偏見 普通って何だろう(3)

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神奈川県厚木市

■空に憧れて
「普通」に学校へ通えなかった少年は今、国内屈指のドローンパイロットとして世界の空へと羽ばたいている。文字の読み書きが困難な障がい「ディスレクシア」がありながら、夢に向かう髙梨智樹さんと、共に進む人たちの歩みを追った。

▽ディスレクシア
文字の読み書きだけに困難さが生じる学習障がい。読めない、読むのが遅い、文字・行間が狭いと読みづらい、読むと疲れるなど、人により症状が異なる。

▼小さい頃からの夢なんです ドクターヘリのパイロットになるのが
ドローンパイロット 髙梨智樹さん(20・戸室)
プロフィル:1998年生まれ。2016年に26カ国66チームが参加した国際レース「World(ワールド)Drone(ドローン)Prix(プリックス)In(イン)Dubai(ドバイ)」に日本代表として出場。18年にドローン専門会社「スカイジョブ」を父と設立。市民リポーターとして空撮なども担う

プロペラの風を切る音が辺りに響くと、機体はふっと浮き上がり瞬く間に空へと昇っていく。機体に付いたカメラは、まるで自分が空を飛んでいるかのような雄大な映像を、手元のモニターへと映し出す。「空からの景色を見たいと思ったのが、ドローンに出合ったきっかけです」。屈託のない笑顔を見せる髙梨智樹さんは、国内外のレースで活躍するドローンパイロット。昨年、父の浩昭さん(55)と会社を立ち上げ、映像や写真の空撮、機体開発などに携わっている。

▽自分はダメだと思っていた
髙梨さんは幼い頃、突発的な嘔吐(おうと)を繰り返す周期性嘔吐症の診断を受けた。思うように学校に通えず、多くの日々を自宅の部屋で過ごした。小学2年生になると、乗り物好きな父の影響で興味を持ったラジコンの情報などをインターネットで調べ始めた。「勉強ができていないから文字をよく読めないし、疲れる」と感じていた髙梨さん。調べた内容は、自分で探した音声読み上げのソフトで聞いた。耳からの情報は、なぜかすっと頭の中に染み込んでいくようだった。
4年生になると、母の朱実さんと、市の青少年教育相談センターに足を運ぶようになった。「体が弱くほっそりとしていた。学力が定着せず、本人も家族も将来に不安を感じていた」。担当相談員だった竹居田幸仁さん(42)は、出会った当時をそう振り返る。竹居田さんと髙梨さんは、相談の傍ら遊びながらいろいろな話をした。みんなと同じように学校へ行けず自信を持てないこと、家族で毎年スキーに行っていること、ヘリのパイロットになる夢があること。「自分で組み立てたヘリのラジコンを、うれしそうに飛ばして見せてくれたことがある。発想の豊かさにいつも驚かされ、話すのが本当に楽しかった」。竹居田さんは髙梨さんが「できる自分」に目を向けられるよう寄り添った。
「話してみると、理解力の高さに驚いた」。そう話すのは、市立清水小学校校長の冨岡薫先生。髙梨さんが小学5・6年生の時に、戸室小学校で担任を務めた。学校にほとんど行けていないため、学習の積み上げがなく、読み書きも困難な面があると知らされていた。しかし、髙梨さんと接するうち「学習が定着しないのは、他の原因があるのでは」と考えるようになった。学習障がいの勉強会などに参加していた冨岡先生。校庭の上空を飛ぶヘリの音を聞き機種を言い当てたり、テストの問題を読んで伝えると満点を取ったりする姿に、思い当たることがあった。ディスレクシア―。冨岡先生は、秦野養護学校の先生に巡回相談で様子を見てもらい、助言を受けて接し方を見直した。授業では、自習や板書を写す時間など、折を見ては髙梨さんに寄り添い、言葉で内容を伝えた。「『自分はできる』と思ってほしかった。お母さんも、教科書にふりがなを振るなど、愛情を注いでおられた」。
卒業文集は、髙梨さんの言葉を冨岡先生が書き出して見本にし、拡大した原稿用紙へ本人が手書きした。文集には、手書きした大きな文字を縮小して載せた。冨岡先生は、卒業式でうれしそうにしていた髙梨さんの姿を今も忘れられないという。

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