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広報あつぎ 第1318号(2020年1月1日発行)

厚木から羽ばたく熱気人(1)

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神奈川県厚木市

厚木で育まれた技術や思いを胸に、より広い世界へ飛び立ち、自分が輝ける場所を見つけた「熱気人(あつぎびと)」たち。たどり着いた舞台でさらなる高みを目指す姿を追った。

■野球選手 井上広輝(18)INOUE HIROKI
▽profile
2001年生まれ。恩名在住。恩名ソフト出身。日本大学第三高等学校在学。最速152キロの速球と変化球を操る制球力が持ち味の投手。18年、「第100回選抜高等学校野球大会」ベスト4。19年にドラフト6位で埼玉西武ライオンズに入団。

▽プロの世界を見据え黙々と
181センチの恵まれた体格を目いっぱい使った、力強い投球フォーム。ずっしりと地面を踏みしめ、勢いを乗せて放たれた球は、空気を裂くような鋭い音を立ててミットに吸い込まれる。昨秋プロ入りが決まった井上広輝さんは、新たな舞台に向け、地道なトレーニングに励んでいる。
兄の影響で、6歳から野球を始めた。強肩を生かし投手のポジションに就くと、負けず嫌いな性格も手伝ってめきめきと上達。ごく自然に「プロ野球選手になりたい」という夢を持つようになった。高校でも、チームメートや指導者から一目置かれていた井上さん。1年の秋から、主戦力としてチームに貢献した。「打ち損じや失投など、野球は失敗の方が多い競技。だからこそ、練習の成果が出せたときうれしい」。黙々と鍛錬する姿は、チーム全体の士気を奮い立たせた。
2年の春には、けがを経験した。3カ月ほど投げられずもどかしい思いをしたが、その間、下半身を中心に徹底的に鍛え抜いた。「じっくりトレーニングできたおかげで、夏の大会では満足のいく投球ができた。甲子園で自己最速を投げられた瞬間は、最高に気持ち良かった」と振り返る。成果を着実に積み重ねたことで、漠然と持っていた夢はいつしか、はっきりとした目標になっていた。
「まずは一軍で先発のローテーションに入りたい。そのために今は、最前線の先輩たちに付いていける体をつくらないと」。幼い頃からの夢をつかんだ井上さん。やるべきことをただ見据え、前へと進み続けている。

■俳優 遠藤雄弥(32)ENDO YUYA
▽profile
1987年生まれ。南毛利小・中学校出身。ワタナベエンターテインメント所属。映画『ジュブナイル』やドラマ『ヴォイス~命なき者の声~』『のだめカンタービレ』などに出演。NHK連続テレビ小説『スカーレット』に出演中。今年、主演映画『辰巳』が公開予定。

▽芝居の持つ力を信じて
「じゃあ本番、用意」。監督の声に続き、カッ、とカチンコの小気味良い音が鳴る。柔和な笑顔を冷ややかな目つきへ変え、役に入り込んでいくのは、遠藤雄弥さん。ドラマや映画、舞台などで幅広く活躍する俳優だ。
幼い頃、母親の勧めで児童劇団に入った遠藤さん。何となく続けていた11歳の時、ドラマで知的障がいのある人の役を熱演する俳優に魅せられた。「初めて芝居ってすごいと感じた」。稽古やオーディションにも熱が入り、13歳の時には初めて主役に抜てきされた。
仕事をしながらも、学校が終わると友だちとゲームをして遊ぶ普通の少年だった。「勉強もスポーツも平均以下。これといった取りえもなかった」と学生時代を振り返る遠藤さん。友人と比べて、本気で取り組んでもうまくできない自分に劣等感を覚えていた。
俳優の仕事も、複数の作品を抱える時期もあればゼロの時もあり、続けるか迷ったこともある。考えが変わったのは、実績を積んできた22歳の頃。撮影の休憩時間に、尊敬する先輩がぽろりと「雄弥の芝居はヤバい」とこぼした。思わぬ言葉にドキッとして真意は聞けなかったが、そのとき迷いが吹っ切れた。「俺には芝居しかない」。役者として生きていく覚悟を決めた瞬間だった。
活躍できるフィールドを見つけた遠藤さんは、より演技の研究や作品づくりにのめり込んだ。没頭する時間が楽しく、多忙なはずの撮影期間の終わりを惜しむほどだ。昨年6月には主演映画の公開に合わせ、厚木でトークショーを開催。「思い入れのある地元で上映できてうれしかった」と笑顔を見せる。
進学や就職といった道を歩んでこなかった自分は、社会から遠いところにいるのでは、と思うこともある。けれど幼い自分が感銘を受けたように、芝居には何かを訴える力がある。「足りないところも含めた、自分にしかできない芝居で、地元や社会に貢献できたら」。芝居の力を信じる役者の目は、静かな野心に満ちている。

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